東日本大震災10年の軌跡
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被災者ニーズと支援の手をつないだ商工会議所指導員の行動力東日本大震災による被害規模を大きくした最大の要因の一つは、言うまでもなく津波である。被災地においては、多くの事業所が、津波による工作機械類の流失や破損等で、事業の復興・継続に支障をきたしていた。そこで仙台商工会議所では、震災で被害を受けた中小・小規模事業者の立ち直りを支援するため、日本商工会議所および全国各地の商工会議所と連携を図ることで、被災事業所に対し遊休製造工作機械等を無償で提供する、「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」を展開した。2011年4月、仙台商工会議所では、全国各地の商工会議所から派遣された経営指導員の協力を得ながら、会員事業所の安否確認と、事業再開に必要な支援策の把握に奔走していた。本プロジェクト発足のきっかけは、そうした局面で耳にした、ある社長の声であった。その日、名古屋商工会議所から応援に来ていた経営指導員の一人が、若林区の鉄工所を訪れた。自宅や、隣接する工場に2メートルほどの津波が押し寄せたその鉄工所で聞いたのが、「機械さえあれば事業を再開できるのだが…」という話だった。それを聞いた指導員は、地元名古屋で自らが担当する事業所に、求められたものと似た機械があったことを思い出した。指導員は、すぐに電話で確認をとり、派遣期間を終えると、早速、その事業所を訪れ、自分が被災地で見てきた現状を伝えた。そして、機械の提供について交渉を持ちかけたのだ。譲ってもらえることになったボール盤などの機械は、提供元事業所の社長自らが運転する4トントラックに積まれて名古屋から仙台まで運ばれ、6月28日、鉄工所代表に引き渡された。震災後さまざまな場面で復興の支えとなってきた「絆」が、仙台と名古屋という遠く離れたものづくり企業の間で結ばれた瞬間であった。機械の提供を受けた鉄工所の代表は「大切な機械をいただけて本当にうれしい。大事に使いたい」と、心からの感謝を表した。提供元の社長も、「同じ、ものづくりに携わる者として、マイナスの状況から立ち上がろうとする方の役に立ちたいと考えた」と支援への思いを語っている。本プロジェクトは、ものづくり企業同士だからこそ分かち合える思いと、被災企業、支援企業それぞれの復興に向けた強い気持ち、そして、日夜、中小企業の経営相談対応に尽力する商工会議所の経営指導員だからこそのアイデアと行動力によって産声を上げたのである。記憶と経験を次代に継ぐ第2章遊休機械無償マッチング支援プロジェクト現場の声から生まれた支援プロジェクト1「被災地のために」が大きなムーブメントへ2商工会議所ネットワークで作り上げた事業スキーム名古屋の話を進めるのと同時に、仙台商工会議所では、他にも支援を必要としている事業所があるはずと、独自に被災事業所の要望を集め、日本商工会議所を通して全国の商工会議所に機械の提供を呼び掛けた。すると、いち早く大分商工会議所がこれに応える。名古屋35

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