東日本大震災10年の軌跡
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このように単なる商品展示会ではなく、さまざまな形式を試したのは、すぐにでも被災事業者の売り上げに直結する仕組みが求められたからだ。厳しい状況が続く被災事業者には、成果が何より必要だった。その目的を達成するため、最も大きな力を発揮したのが、前述した、バイヤー経験のあるコーディネーターであり、サプライヤーの課題を一緒になって解決していく伴走型の支援体制であった。近年、生活スタイルや家族構成の変化により、消費者ニーズ、市場トレンドは目まぐるしく変わる。サプライヤーはそれらをしっかりと把握し、商品コンセプトやターゲットを明確にして、自社と他社の差別化を図りながら、ネーミングやパッケージデザイン、販売店舗が求めるサイズにも気を遣わなければならない。マーケティング戦略を練ることは、大手企業でも大変な労力とコストを要する作業である。ましてや震災で疲弊した被災事業者にとって、それらが困難を極めることは想像に難くない。しかし、いざ商談を開けば、バイヤーは真剣に「売れる商品」を探しに来る。「支援買い」を求めるだけでは、本質的な問題の解決につながらない。そこで必要とされたのが、コーディネーターのプロの目によるきめ細かなサポートであった。コーディネーターの仕事は多岐にわたる。会場内でサプライヤーが構えるブースをバイヤーが訪れる展示型の形式とは異なり、「伊達な商談会」は、その回ごとに招聘するバイヤーに対してサプライヤーが自社商品を売り込む、いわば「逆見本市型商談会」のスタイルである。個別商談会を開く際には、まず招聘するバイヤーがどのような商品を求めているのか確認する。その上で、商談会に参加予定のサプライヤーがどのような企業で、何をメイン商材として売りたいのかをヒアリングする。そうすることで、初期段階でのミスマッチのリスクを大きく減らすことができる。商談が決まると、コーディネーターは場合によってサプライヤーに対して事前に商談のアドバイスを行う。さらに、コーディネーターは当日も商談の場に立ち会い、商談に不慣れなサプライヤーの通訳的な役割も担う。商談は、当然ながら即成約につながるケースなどそう多くない。成約に至らなかった場合には、バイヤーから改善点などを聞き取って課題を整理し、サプライヤーと一緒になって次に向けた商品と商談方法のブラッシュアップを考える。「継続商談」になったものについても、しっかりと後追いでフォローしていくのだ。まさに、専門コーディネーターによる「課題解決型の商談会」と言って良い。こうした取り組みを続けることによって、「伊達な商談会」は平均20%超という高い成約率を実現させることができた。事業開始時からの総成約額は40億円を超える(推定)。今日では、「伊達な商談会」の名前は仙台方式商談会として全国の流通関係者に知れわたるものとなっている。第1部コーディネーターが事前リサーチ・相談対応サプライヤーコーディネーターと一緒に商品をブラッシュアップ!催事・イベントに出展しお客さまの声をキャッチ!新しい販路を見つけたい・・・伊達な商談会新規取引スタート商談成立次の商談へ継続商談未成立■伊達な商談会の基本スキーム仙台商工会議所 東日本大震災 10年の軌跡44

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