東日本大震災10年の軌跡
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祭りの開催が高めた復興への機運震災から1カ月。街には徐々ににぎわいが戻り始めていた。しかしながら、依然として日本全体に自粛ムードが広がっており、それに伴う経済活動の停滞は復興への足かせとなっていた。そこで鎌田会頭は、4月21日、日本商工会議所の議員総会後に行われた岡村正日商会頭(当時)の記者会見に同席し、全国に向けて、「過度に自粛をせず、東北の産品を積極的に購入してほしい」、そして「東北復興を後押しするためにも、東北に足を運んでほしい」と訴えた。さらに、その受け皿の一つとして、「この年の仙台七夕まつりを例年通り開催する」と発表した(後日、協賛会役員会で正式決定)。仙台七夕は、仙台藩祖である伊達政宗公の時代から続く伝統行事として市民に受け継がれ、今日では、日本古来の星祭りの優雅さと、飾りの豪華絢けんらん爛さを併せ持つ日本一の七夕まつりとしても全国にその名を馳せている。その歴史をみると、不景気や戦災など、時代時代の苦難を乗り越えるため、仙台市民が心のよりどころとしてきた大切な文化でもあることが分かる。この年、仙台七夕まつりを開催したこと、それも早期に決定・発表したことは、仙台における復興の機運を高めるのに大きな役割を果たした。仙台七夕まつりが開催を発表すると、それに呼応するように東北や全国各地の祭りも続々と開催を決定していった。この年からスタートした東北六魂祭(現・東北絆まつり)は、東北の元気をアピールするのに大きく貢献したが、それも東北各地で実際の夏祭りが開催されたからこその効果である。仙台七夕まつりの開催は、仙台のみならず東北全体の復興にも少なからず影響を与えたと言える。復興への願いを込めた仙台七夕まつり仙台七夕まつりは、4月26日の協賛会役員会で、正式にこの年の開催が決定された。七夕は、元々、星に願いを託す行事である。そのため、この年のテーマは、仙台・宮城そして東北全体の復興を願い、「復興と鎮魂」とされた。市内の商店街・商店会では、震災後の厳しい状況の中にもかかわらず、短期間で準備が進められ、それぞれの思いが詰まった多くの七夕飾りが店先に飾り付けられた。この年、東北各地のお祭りに対して、全国から、励ましのメッセージや、義援金をはじめとする多くの支援が贈られた。仙台七夕まつりにも、国内だけでなく、世界各地から2万枚を超える短冊や折り鶴が届いた。インターネットの短冊特設サイトにも多くの願いが寄せられた。記憶と経験を次代に継ぐ第4章復興への機運を高めた祭り 〜オール東北で元気を発信〜全国に向けた自粛抑制の呼びかけと仙台七夕まつりの早期開催宣言1七夕飾りにも復興への願いが込められた。51

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