東日本大震災10年の軌跡
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新たな視点による総合的な津波対策 大地震によって発生した津波は、仙台港に7.1メートルの高さとなって押し寄せた。この津波による仙台市東部沿岸地域の浸水面積は4,523ヘクタール、浸水世帯は8,110世帯にものぼった。 仙台市の発表によると、この震災によって市内で死亡が確認されたのは904人(震災関連死含む)、行方不明者は27人。死亡が確認された方のうち、遺体の発見場所が浸水区域のある宮城野区、若林区に集中していたことからも、津波被害の大きさがうかがえる。 この被害から、一部で仙台東部道路が浸水を軽減したところはあったものの、巨大な津波に対しては海岸堤防等の構造物による防御には限界があることを認識させられた。また、命を守るために「逃げる」という減災の視点の重要性が改めて明らかになった。 そこで仙台市では、たとえ被災しても被害を最小限にとどめられるよう、減災の視点を意識した総合的な津波防災対策をとることとした。まず津波に対する防御として、海岸堤防やかさ上げ道路など、複数の施設による「多重防御」を整備。また、それらに頼り切ることなく、「避難」を重視した施設も合わせて整備した。それでも安全を確保できない地域では住まいを「移転」するなど、人命の安全を最優先とする対策を行った。減災を意識した仙台市震災復興計画 仙台市の復興に向けた計画の策定は、発災の約1週間後から検討に着手された。まず、復興に向けた当面の施策の方向性を示す「仙台市震災復興基本方針」を2011年4月1日に、さらに復興計画の素案となる「仙台市震災復興ビジョン」を5月31日に策定した。この復興ビジョンによって、津波に対する防災対策は「多重防御」による減災を基本とすることが示された。 復興ビジョンに基づく「仙台市震災復興計画」は、各分野の専門的な知見を生かすため、外部の有識者による「仙台市震災復興検討会議」の意見を聞きながら策定が進められた。7月13日の第1回会議では、議長に当所の鎌田会頭が選出され、以後、議論が重ねられた。会議では最大の課題である東部地域の再生を中心に議論が行われ、11月14日開催の第6回会議で最終的な復興計画(案)を審議。11月30日の市議会臨時会で議決され、復興計画の正式な策定に至った。多重防御における防災施設の概要 津波被害を最小限に抑える仙台市の「多重防御」は、海岸堤防、海岸防災林、海岸公園・避難の丘、避難道路、避難施設等で構成されている。また、津波から命を守る多重防御の要の一つとして、海岸とほぼ並行して東部地域を縦断する県道塩釜亘理線のかさ上げを行った。道路のかさ上げを行うことで、海岸堤防、海岸防災林に続いて津波の威力を減じる堤防の機能を持たせている。 新たに整備した道路は「仙台市東部復興道路(略称:かさ上げ道路)」とされ、既存の県道に隣接する位置を基本に、宮城野区内では県道から東側に直線化させた。全長は約10キロメートルで、計画交通量は1日18,400台。盛土高は約6メートルとし、海面からの高さはT.P.+7.0メートル(※)とした。※T.P./東京湾平均海面(Tokyo Peil:T.P.)。全国の標高の基準となる海水面の高さ。第6章災害に強い地域・まちづくり ~対話からこそ生まれる真の整備計画~記憶と経験を次代に継ぐ津波被害を最小限にとどめる多重防御165

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