東日本大震災10年の軌跡
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第6章災害に強い地域・まちづくり ~対話からこそ生まれる真の整備計画~記憶と経験を次代に継ぐ移転促進区域の決定と住宅再建方法 仙台市は、地震と津波の影響で住まいを失った方への住宅再建に係る事業を最優先とし、発災約10日後から津波で被害を受けた東部復興まちづくりの検討を始めた。将来、同様の被害を繰り返さないよう、住民の安全安心の確保を最優先にしつつも、単なる現状復旧ではなく防災施設の整備や移転による新たなまちづくり、土地利用の見直しが行われた。 学術的な調査・研究によると、津波浸水深が2メートルを超えると家屋の流失割合が高くなるとされる。そこで仙台市も、多重防御を整備してもなお浸水深が2メートルを超えると予測される災害危険区域内の7地区(和田・西原地区、蒲生・港地区、南蒲生地区、新浜地区、荒浜地区、井土地区、藤塚地区)を移転促進区域とした。移転促進区域は、住居の集団移転(防災集団移転促進事業)が適用され、移転に関わる経費は国からの補助金が交付された。自治体と移転対象者が共に進めた移転事業 災害危険区域の境界は、1本の道路(かさ上げ道路)である。これは、境界の東西で移転の要否や支援の種類が異なることを意味し、被災者にとって非常に重要な決定であった。そこで仙台市では、移転対象者が主体的に自身の再建について考えられるよう説明と対話を重ね、可能な限り意向を反映してきた。複数のアンケート調査による意向把握、説明会等での意見聴取、町内会からの要望書等での意向の吸い上げなどは、防災集団移転促進事業実施の適否や移転先候補地等に生かされた。そうした双方向の事業進行により、防災集団移転促進事業は当初計画通りの2015年度内に事業を完了、復興公営住宅は2016年度内に目標供給戸数を整備することができた。道路位置の見直しで移転対象者を減少 ところで、かさ上げ道路の位置は、当初既存の県道と並行して整備する予定で、浸水区域の推定を行う津波浸水シミュレーションもその想定に基づき検討された。この結果、予想浸水深が2メートルを超えるかさ上げ道路の東側は、危険性が高い災害危険区域として防災集団移転促進事業の対象となった。しかし移転にかかる費用や既存の地域コミュニティーの分断など、移転対象者の負担が大きいことから、可能な限りその区域が小さくなるよう仙台市と専門家の間で協議が重ねられた。 協議の結果は説明会などで移転対象者に伝えられ、その場で多数の意見が寄せられた。また移転対象予定の岡田地区町内会連絡協議会から、県道東側を一律に建築制限することへの反対意見、かさ上げ道路の直線化による現地再建への要望書が提出された。 仙台市では説明会での意見や町内会の要望書等を踏まえ、かさ上げ道路位置を再考。現状のように道路を直線化すると、道路西側は災害危険区域から除外できることが分かった。 この変更により、移転対象を当初の想定から約400世帯減少させることが可能となった。住民との対話による整備推進と民間活力を生かした土地の利活用267

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